ガソリンスタンドの店長も、IGA腎炎であった。
私は、いま、副腎質ホルモン剤を飲んでいる。32年ぶりに再発した微小変化形ネフローゼの治療のために服用している。病状は治まって、仕事はしている。しかし、副腎質ホルモン剤は、すぐには切れないため、すこしづつ、医者の指示に従って減量中である。人によるが、やはり、だんだんと副作用が出てくる。人それぞれであるが、私の場合に、特に精神に影響を与えているようである。副作用は、何も悪い方向だとは限らない。いい面と悪い面の作用がでてきている。いい面は、免疫力を抑えているため、我欲が薄れている。天に近くなっている。ある意味、今まで、気づかなかった発想が、どんどん生まれている。悪い方向は、なぜか、感受性がより敏感に反応する。だから、非常に無常を感じる。相対的に変化する人の命、それと、変わらないもの、時間の流れの中で、それらはそれぞれ変化する率が異なっている。子供は成長する。親は老化し、あの世へと帰る。自分は老化する。しかし、自然の風景は変わらない。当たり前の話である。その変化する率、それ自身がまた変化する。余計、無常観が突き上げてくる。時間軸に対しての世の中の流れの加速度(速度の変化)の変化、空間軸に対しての世の中の流れの加速度の変化、それらが、重なって、私の意識をよぎる。世の中の無常が心を切なくする。
仕事があって、東京まで車でいった。関東へ行く前、ガソリンをいれにガソリンスタンドによった。久しぶりに若い店長にあった。「お久しぶりやね」と声をかけた。「エンジンオイルでもみますか」と声をかけられた。「しばらく、入院していたから、車にはのってないから、奇麗だと思うよ」といった。若いといっても、30代半ばである。大阪の言葉で言えば、若いお兄ちゃんという感覚である。エンジンオイルをみて、「確かに奇麗です。どころで、どこが、悪かったのですか」と聞いてきた。「腎臓でね」と答えた。そうすると、店長は「僕も腎臓が悪いのです」といった。えっと私はその店長の顔をみた。私は、「32年ぶりに、ネフローゼを再発し、○○病院に入院していたのです」と話した。「ネフローゼですか、大変ですね、私は、IGA腎炎です」と店長はいった。「蛋白はでているのですか」と私は尋ねた。「蛋白はそれほど、出てませんが、定期的に、病院に検査入院して、経過を観測しています」と言った。店長が入院している病院も、腎臓では有名な大学病院であった。「あまり無理をしないでくださいね」と店長は私にいった。もちろん、無理など、するつもりはないが、その話を聞いただけで、私は一気に無常を感じた。悲しくてやりきれない気分に陥った。
IGA腎炎は、普通は聞きなれない言葉である。IGAは免疫細胞の一種であり、のどや気管支や胃腸などの粘膜を病原菌から守るものである。病原菌をやっつけたIGA細胞(病原菌とIGAの複合体)が、血液の中を通って、腎臓に送られ、糸球体の中にたまると、今度は、白血球が遺物として、その腎臓の糸球体を攻撃し、炎症を起こす場合がある。これが、IGA腎炎である。これも、よく分らない病気である。入院中、IGA腎炎の患者と話したことがあった。扁桃腺を切除するために、入院したそうである。いずれ、腎機能が落ちてきて、透析になる可能性があるために、IGA腎炎にかかっている人は、定期的に検査入院をして今の状態を観察しているそうである。
確かに、人生は一度きりである。誰もが、好き好んで病気になる人はいない。しかし、それを悲観しても意味がない。過去に戻れるなら、何ぼでも戻ればいい。しかし、現実には戻れない。すんでしまったことは、どうにもならないからである。今がベストだと思うしかない。生れ落ちた時間と空間とで、自分の人生が決まる。今の自分は、今の自意識が自分を決めている。考えてみれば、自分など、無いに等しい。たまたま、生れ落ちた時空間に、何かの順縁で、命が誕生し、そして、記憶をもって、自分という自我がまるであるかのように存在している。そして、ある時間が経過すれば、消滅する。その後、自分は再び、今の記憶をもった自分を認識することはないだろう。もし、自分がいま、記憶を失い、過去との関連を一切絶たれたら、いったい、自分とはなんなのか、誰なのかと思うことだろう。それと、同じこと、一瞬、一瞬、自分が存在しつづけられるのは、記憶に時間の連続性を感じられるからである。それが、自分である。その連続性が切れていって、ばらばらになっていけば、自分は、その瞬間、瞬間に変化していく。そのとき、自分はあの世にいるのと同じことである。そうであれば、この世は、不平等の塊でもある。病に苦しむ人もいれば、貧困に苦しむ人もいる。生きたくても生きれない人もいれば、生きれるのに、生きるのを放棄する人もいる。お金持ちの家に生まれてくる人もいれば、そうでない人もいる。
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